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権威と分節 近現代中国の社会・教育・文化に関する断章

¥2,640 税込

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著者:水盛 涼一

【概要】
中国とはどのような社会なのか。巨大な領域、膨大な人口をどのように統治しているのか。
社会の構成要素である分節をキーワードに、都市住民なかでも若年層の視点から、
印刷出版、企業統治、試験制度、官僚集団、政治宣伝、人身把握、地域振興、国際融資といった諸題材を通して多角的に分析する。

【内容】
本書は諸題材について具体例に基づき素描を試みた。
たとえば第5章では大学入学統一試験「高考」における歴史の作問事例を挙げる。
試験は前半こそ択一式問題であるが、後半には複数の記述式問題が登場する。
試みに2020年7月実施試験を挙げれば「宋代史に関する国内外の学者の著作は数多く、叙述の重点はそれぞれに異なる。
たとえば『儒家の統治する時代』『中国思想と宗教の奔流』『文治の隆盛と武功の退潮』といった書名には著者の時代認識が反映している。
それでは、学習した知識により中国史の一時期について時代の特徴を反映し得た書名を考え、また具体的な史実を応用し論証せよ」であった。
日本では諸事情により導入に失敗した全国統一試験の記述式問題であるが、中国では課題を指摘されながらも歴年実施されてきた。
続く書き下ろしの第6章では試験の周辺環境にも言及する。
2023年度「高考」の出願者は1291万人(なお日本の2023年度共通テスト出願者は49万人)、
中国の若年層へ多大な影響を与えるものとなっている。
そのため試験実施責任者は各省の副省長が勤め、試験会場への入場には顔面認証システムを導入し、
試験監督や採点者を事前に招集訓練して公平公正な業務遂行を期し、
制度の動揺による社会の不安定化を可能なかぎり抑制しよう試みているのである。
おりしも、1985年から国定教科書は検定教科書へ、統一試験は地方各省作問実施へと推移したが、
近年になって一部教科は検定から国定へ、各省試験は統一試験へと回帰しつつある。
「考を以て学を促す」の俗諺に通じるものか、
2023年度高考作問の全体方針は「全面的に新時代中国特色社会主義思想を溶け込ませ、総書記の重要な講話を試験内容に入念に組み込み」
「新時代中国特色社会主義思想の世界観と方法論、立場や観点や方法を把握させ、成長や成功ための思想と理論の基礎を突き固めていく」ことを目指したとする。
作問、監督、採点、これらは中央の指導者が直接に担当するものではない。
あくまで各分節が上意を受けて下位に伝達し、銘々が実施するものである。
そこで分節は自らの意思や状況に応じて過剰忖度から職務遅滞まで種々の様態を見せ、
また上位は彼らに対して人事優遇から厳重処罰まで様々な措置を採るだろう。
以上例示した試験制度のほか、本書では印刷出版、企業統治、官僚集団、政治宣伝、人身把握、地域振興、国際融資といった題材から中央の意思と分節の行動を追ったものである。

【目次】
序章
 1.本書の視角
 2.演者たちへの視座
 3.本書の構成

第Ⅰ部 権威と言説
第1章 清末出版統制序説──禁書指定・自主規制・地下出版のはざまで
 1.はじめに──清朝後半期における出版統制
 2.禁書指定の様相(一)──暦書と律例
 3.禁書指定の様相(二)──猥褻図書
 4.禁書指定の様相(三)──政府批判
 5.おわりに──自主規制と出版統制のはざまで

第2章 官僚職員録の発展と変容にみる社会変化と紐帯形成
 1.はじめに
 2.現職者の職員録『搢紳全書』
 3.官僚相互の親睦のための名簿『登科録』
 4.各省職員録の淵源『題名録』
 5.おわりに

第Ⅱ部 分節と演者
第3章 標語宣伝と出版活動──軍への学習・教育と人事査定を中心に
 1.はじめに
 2.指導者の交代と「軍委主席責任制」宣伝活動の伸長
 3.民政部門における権限強化とスローガン作成
 4.軍政における軍委主席の権限強化と教育・査定・粛清
 5.おわりに

第4章 政党と企業の関係性および企業ガバナンス
 1.はじめに
 2.党から企業へ
 3.企業から党へ
 4.おわりに

第5章 大学入学試験制度と社会科教育──21世紀における展開と変容
 1.はじめに
 2.高考とその問題文──総合的作題の同時代性
 3.教科書と高考との関係性──学問奨励と範囲外問題
 4.おわりに

第6章 統一へ向かう大学入学試験制度と教育行政の変容
 1.はじめに
 2.21年度以降の試験制度の推移
 3.21年度・22年度の試験問題
 4.23年度の試験問題
 5.おわりに──作問と採点のかなたに

第7章 高齢者福祉と社区そして網格
 1.高齢化社会の概観
 2.中国の社区・網格と福祉政策
 3.おわりに

第8章 辺疆と開発の国際関係──広西北部湾国際港と西部陸海新通道をめぐって
 1.辺疆の諸相
 2.北部湾の開発
 3.東南アジア諸国と広西・重慶
 4.おわりに

あとがき


著者について
水盛 涼一(みずもり りょういち)
多摩大学 経営情報学部 准教授
東京都出身。東北大学大学院にて修士・博士(ともに文学)を取得。
2011年6月より東北大学大学院文学研究科で助手・助教を勤め、2017年4月より現職。
専門は近代中国における官僚制度や出版文化。
論文に「曽国藩和他的親信史家」(『曽国藩研究』第1輯、湖南人民出版社、2007年6月)、「清朝末期の候補官僚と人事評価」(『東北大学文学研究科研究年報』第64号、2015年3月)、「中国における標語宣伝と出版活動」(『経営情報研究』第23号、2019年1月)、監修書に『モンゴル帝国とユーラシア史──社会人・大学院生・学生の目線からのグローバルヒストリー』(多摩大学出版会、2023年3月)など。

サイズ:A5判
頁 数:252ページ
発行:多摩大学出版会
発売:ぶんしん出版
ISBN978-4-89390-212-2
価 格:2,400円+税
発行日:2024年3月31日 初版第1刷

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多摩大学出版会
https://www.tama.ac.jp/research/publication/index.html

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